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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)11394号 判決 1985年6月27日

原告 株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役 木谷義高

右訴訟代理人弁護士 磯貝英男

被告 シャープ家電株式会社

右代表者代表取締役 土屋誠治

右訴訟代理人支配人 村上靖雄

右訴訟代理人弁護士 田口邦雄

同 小村享

同 布施憲子

主文

一、被告は原告に対し、金一、二九八万六、〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年九月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、立替払等を業とする株式会社である。

2. 原告は、昭和五六年四月一日、被告との間で、被告の特約店が顧客に販売した商品の代金を顧客に代って被告に立替払する旨の契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結した。

3. 被告の特約店である訴外株式会社ジャスコ(以下「訴外会社」という。)は別紙一覧表の顧客氏名欄記載の者に対し、同表の売買契約日欄記載の日にそれぞれ自動販売機を売渡す旨の契約を締結し、原告は被告に対し、本件立替払契約に基づき、同表の立替払日欄記載の日に立替払金額欄記載の金員をそれぞれ支払った。

4. 別紙一覧表の番号欄2、4、7、8、10ないし17及び19記載の各顧客は、同表の解除の日欄記載の日に商品の未納(同表の番号欄8記載の顧客はクーリングオフ)を理由に、訴外会社との間の売買契約を解除又は合意解除し、その余の顧客は、訴外会社が商品を納入しないまま昭和五六年一二月に倒産したため、売買物件の引渡を受けることが確定的に不能となった。

5. 本件立替払契約に基づく原告の被告に対する立替払は、顧客が被告の特約店に対して支払うべき売買代金を顧客に代って支払うものであるから、顧客と特約店間の売買契約が解除され、又は、目的を達成することが確定的に不能になった以上、被告は原告に立替払を請求する権利を有しないから、原告の被告に対する前記立替払は法律上の原因を欠くというべく、被告は立替払した金額相当の利益を得、原告は同額の損失を蒙った。

6. 仮に不当利得が成立しないとしても、被告は、その特約店から顧客に対して商品の引渡がされていることを確認した上で原告に対し立替金の請求をすべき契約上又は条理上の義務があり、更には、原告に対する顧客の分割金の支払を確実にするため、特に商品の引渡が間違いなく履行されるよう特約店を監督する条理上の義務があるにもかかわらず、被告は訴外会社に売渡した商品の代金の回収を急ぐ余り、右各義務に違反して、原告に対し、安易に立替払の請求をした過失により、原告は前記のとおり立替払した金員相当の損害を蒙った。

7. よって、原告は被告に対し、主位的に不当利得返還請求権に基づき、予備的に不法行為による損害賠償請求権に基づき、立替払した合計金一、二九八万六、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であり、かつ、不法行為の日の後である昭和五七年九月一九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1項の事実は認める。

2. 同2項中、本件立替払契約は原告が顧客に代って売買代金を被告に立替払するものであるとの点は否認し、その余の事実は認める。

本件立替払契約は、訴外会社が被告に対して支払うべき商品の売買代金を訴外会社に代って被告に立替払するというものである。

3. 同3項の事実は認める。

4. 同4項中、訴外会社が主張のころ倒産したことは認めるが、その余の事実は知らない。

5. 同5項の主張は争う。

原告は、訴外会社に代って被告に立替払したものであるから、法律上の原因がある。

6. 同6項の事実は否認する。

三、抗弁

1. 原告と被告は、本件立替払契約を締結するに当り、被告は原告に対し、訴外会社に対する商品納入責任及び商品の瑕疵担保責任のみを負い、訴外会社と顧客との間の販売上のトラブルに派生する責任は、不当利得責任をも含め、何ら負わない旨合意した。

2. 仮に被告に不法行為責任があるとしても、原告は立替払を業とする商人であるから、立替払を実行するに当り、訴外会社が顧客に対して商品を納入したか否かを調査すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然と立替払を実行した過失がある。よって、損害額を定めるにつき原告の右過失を斟酌すべきである。

四、抗弁に対する認否

抗弁1及び2項の事実は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因について

1. 請求原因1項の事実は当事者間に争いがなく、同2項の事実は、本件立替払契約が原告において顧客に代って売買代金を被告に立替払するものであるとの点を除き、当事者間に争いがない。そこで、本件立替払契約の趣旨について検討するに、<証拠>によれば、本件立替払契約の契約書(甲第二二号証の原本)の冒頭には、「シャープ家電株式会社(以下「甲」という)と株式会社オリエントファイナンス(以下「乙」という)は甲より商品を購入し、又は役務・サービス等の供与を受けるに要する顧客の代金(以下「所要資金」という)を顧客並びに甲の特約店の委託を受けて、乙が甲に立替払いする業務に関し、次の通り契約を締結する。」旨記載されていること、また、これを受けて、原告及び被告に被告の特約店である訴外会社を加えた三者で昭和五六年六月ころ取交わした覚書(乙第一三号証)には、第六条(1)において、「甲(訴外会社)が本制度に基き一般消費者に対し販売した商品の代金を丙(原告)が乙(被告)に一般消費者に代り立替払いします。」旨記載されていること、そして、本件立替払契約に基づいて立替払が実行される現実の手続の流れは、訴外会社と顧客との間に商品の売買契約が締結されると、まず、訴外会社から原告に対し当該顧客についてクレジット契約の申込みをしたい旨の連絡があり、原告において与信の可否等について調査確認の上これを承諾すれば、訴外会社にその旨連絡することにより、原告と顧客との間にクレジット契約が成立するに至り、被告は成立したクレジット契約に係る顧客が訴外会社に支払うべき商品の売買代金相当額を、いずれの顧客の分であるかを特定するとともに当該顧客が署名押印したクレジット契約書を添付して、原告にその代金の立替払を請求し、原告はこれに応じて被告にその金額を支払うというものであったこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右に認定した事実によれば、本件立替払契約は、被告の特約店が顧客に販売した商品の売買代金を原告が顧客に代って被告に立替払するものであると認められる。

もっとも、前出甲第二二号証の第一条(3)には、「乙(原告)が割賦販売契約の締結を受諾した時は、乙(原告)は甲(被告)の特約店から商品を買入れ顧客との間に割賦販売契約を締結し乙(原告)は甲(被告)に対し顧客の所要資金を立替支払う。」旨の記載があり、あたかも被告の特約店と原告との間に売買契約が締結されるかのような印象を与えるが、同号証の第九条には、顧客に販売した商品の所有権は、顧客の原告に対する割賦販売代金債務を担保するため、原告と顧客間の割賦販売契約が成立したときに原告に移転する旨記載されていることをも併せ考慮すれば、右第一条(3)の趣旨は、顧客が原告に対して割賦販売代金を完済するまで商品の所有権が原告に留保されることを説明するためには、そのような法律構成をとらざるを得ないことを宣明したにすぎないと解すべく、これを超えて、原告が本件立替払契約に基づき被告に対して支払う立替金が、被告から訴外会社に売渡された商品の売買代金を訴外会社に代って支払うものであるということまで意味するとは到底認められず、したがって、本件立替払契約の趣旨についての前記判断を左右するものではない。

2. 請求原因3項の事実は当事者間に争いがない。そこで、同4項の主張について判断するに、訴外会社が昭和五六年一二月に倒産したことは、当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、別紙一覧表の番号欄2、4、7、8、10ないし17及び19記載の各顧客は、同表の解除の日欄記載の日に商品の未納(同表の番号欄8記載の顧客はクーリングオフ)を理由に、訴外会社との間の売買契約を解除又は合意解除したこと、右の各顧客はもとより、同表の顧客氏名欄記載のその余の顧客も、訴外会社から売買物件の引渡を受けていないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3. 以上認定したところによれば、本件立替払契約は、被告の特約店が顧客に販売した商品の売買代金を原告が顧客に代って被告に立替払するというものであるところ、被告の特約店である訴外会社との間の売買契約を解除又は合意解除した顧客についてはもとより、訴外会社から売買物件の引渡を受けていないその余の顧客についても、訴外会社がすでに倒産している以上、その引渡をすることは事実上不可能であり、したがって、訴外会社の売買契約に基づく債務は履行不能になったのであるから、顧客は訴外会社に対して売買代金の支払を拒むことができると解するべく、延いては、原告が顧客に代ってその代金を被告に立替払する義務もないものというべきである。そうすると、原告は被告に対して支払う必要のない代金を立替払したことになり、結局、被告は法律上の原因なくして原告が支払った金員相当の利益を得、原告は同額の損失を蒙ったといわざるを得ない。

二、抗弁について

抗弁1項について判断するに、前出乙第一三号証の第八条には、「甲(訴外会社)が丙(原告)を通じて一般消費者に対して販売した商品について、メーカー責任以外の販売上のトラブルを理由としてその購入者から割賦金の支払を停止された場合は、甲(訴外会社)の責任において、そのトラブルを処理し乙(被告)及び丙(原告)の請求があった場合、購入者の未払金を直ちに支払うものとします。」と記載されているところからすれば、被告は、訴外会社との間においては、メーカー責任すなわち商品の瑕疵担保責任のみを負い、それ以外の販売上のトラブルに起因する責任はすべて訴外会社が負う旨合意したことが認められるが、これを超えて、本件のように訴外会社が倒産したことに起因して生じた不当利得に基づく責任について、原告との間において、被告がその責任を負わないということまでも合意したものとは到底解することができず、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

三、結論

よって、不当利得返還請求権に基づき、立替払した合計金一、二九八万六、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年九月一九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の主位的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 萩尾保繁)

<以下省略>

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